“守り人シリーズ”ですっかり魅了された上橋菜穂子さん。
そのシリーズがあまりに好きすぎて、違う作品を読む気がしなかったのだが、もう解禁してよい頃合かなぁと思って、購入した「狐笛のかなた」。
しばらく本棚で眠った末、ちょっとしたおでかけの際に持っていったが最後、家に帰って仕事をしなくてはいけないのに、しかも次の日に向けて早く寝なくちゃいけないのに!!!
一気読みをしてしまった・・・
しかもこの興奮冷めやらぬうちに、とばかり、感想まで書いてるし。
といっても“守り人シリーズ”のように、ドキドキわくわく系ではなかった。
旅するわけでもないので、冒険ってわけでもないし。
そして“守り人シリーズ”よりも物悲しい感じだった。
里のはずれに祖母と住む小夜は、ある晩、手負いの狐に出会う。
その狐を抱えて逃げ込んだ先が、誰も足を踏み入れない森影屋敷。
そこには男の子がいて、小夜と狐をそっと入れてくれる。
その男の子の名前は小春丸。この屋敷に閉じ込められたまま、外に出られないでいるのだ。
その後しばらく小夜は、小春丸と夜中に外でこっそり会うことになるのだが、それも雨の晩、小春丸の従者に見つかりそうになるというハプニングをもって終わってしまう。
さて何年も経ち、小夜は娘となり、祖母は亡くなって1人で暮らしている。
小夜には人の心を読むという力を備えていて、それを誰にも言わず、あまり力を使わないように暮らしている。
ところがある日、里の市で歩いている時に、「葉隠」と呼ばれる刺客にその力を見破られそうになり、そこを鈴という女性が助けてくれる。
彼女には大朗という兄がいて、二人ともこの国に使える呪者だったのだ。
ここで明かされるこの国と隣の国の因縁。
そして小夜の身の上。
ま てっとり早く説明すると、この国と隣国は長年いがみあっていて、隣国はこちらに恨みがあるもんだから、呪者を使って、この国の重臣や領主の妻を殺していた。
それでこちらもそれから身を守るため、小夜の母や大朗たち呪者が活躍していたのだった。
ところが小夜の母は、実は領主の次男坊であった小春丸と小夜を守るため、死んでしまったのだった。
そしてその強力な呪者が死んでしまったこの国は、隙だらけであり、なかなかつぶしても潰しても、つぶしが利かない状態だったのだ。
しかも、小夜が助けた狐・野火は敵側の呪者につかえる使い狐で、主の命を受け、領主の屋敷に忍び込んでいた。
でも野火は小夜や小春丸を殺したりすることなぞ、とてもできなくて・・・・・・
というお話。
“守り人シリーズ”にも出てくるが、恨みあったり憎みあったりする中、どうやってこのこじれをほどいていくのか、と登場人物が模索し、もがくのが話の筋となっている。
野火や小夜が、天狗の木縄坊に
(・・・・・・この子らは、蜘蛛の巣の、細い糸の先でふるえている、透きとおった水の玉のようだ)
(p240)
と称されるくらいの子たちなのだが、こんなふうに純粋が故に儚い、という登場人物が、上橋菜穂子さんの作品の主人公に多い気がする。
そしてそういう純粋な登場人物が、純粋が故の傷を負いながらも乗り越えていって、最終的にはある形に行き着く。
その“ある形”というのは、もしかしたら他の人からしたら「幸せな形」ではないだろうけど(今回の場合は、小春丸は「むごいことだ」とつぶやいている)、その人たちにとっては幸せな形であるのが、読んでいてすっとする。
やっぱり好きだなぁ~と思ってしまう、上橋菜穂子作品。
上橋菜穂子 「狐笛のかなた」平成18年 新潮社
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