久しぶりの有栖川作品!
図書館で本棚を漁っていた時になんか久しぶりに読みたくなってしまったのだ。
恩田陸作品のように毒のある小説も好きだけれど、有栖川作品みたいにさっぱりしてて、殺人事件を扱ってるはずなのに笑いがある話も好きなのだ。
そう、有栖川作品には殺人事件物ってのを忘れるくらい陰気さがないと思う。
処女作の「月光ゲーム」だって割と悲痛なエンディングなのに、事件が終わってしまうとカラッとしている。しかも終始、漫才みたいのが散りばめられているし。やっぱり有栖川氏が大阪人だから?
ちなみに今回ヒットだったのが火村さんのこのセリフ;
「被害者はほとんど即死だった、と聞いただろう。胸を撃たれながら、犯人の手にすがりつけたとは思えないな。――え、森下さんに助け船を出したつもり?泥の船じゃ間に合わないぜ」
(p143)
嗚呼、断然江神さん派だったけど、火村さんもいいな…と思う今日この頃。
さて本書の内容に入ると、長編かと思って手にとったら実は連作でした。
はしがきを読んでみると(有栖川氏にしては珍しくあとがきがなくまえがき!)、もともと短編として「猿の左手」を書いたらしいが、その作品の登場人物をもう一度登場させて話を書きたい、ということで「残酷な揺り籠」を書かれたそうだ。
「猿の左手」
夜釣りをしていた人から、車が海へ突っ込んだと通報がある。車の中の男は溺死。事故死かと思いきや、彼の胃からは睡眠薬が検出され、殺人事件の容疑がかかり、火村さんと有栖川が捜査に乗り出す。
亡くなった男の妻は催眠療法でダイエットを支援するクリニックを経営。そこそこ成功しているはずなのに、当の旦那の事業が失敗続きで借金がえらいことになっている。
しまいには彼女の昔の友人から借りる始末。
ということで容疑者は、妻(アリバイがある)、お金を貸している友人(足が悪く泳げない)、その友人の養子(水難のトラウマから水に入ることができない)。
というような事件を、かの有名なジェイコブズ作の『猿の手』をきっかけに解き明かす。
ちなみに“かの有名な”なんて書いたけど、むっかーし小学生の頃の読んだっきりだったので、すっかり話の顛末を忘れてた。最初のシーンとか、どういう状況で読んだのかは覚えていたんだけどなぁ~
なにはともあれ、それでも火村さんの解釈にはびっくりした。そしてそれが有栖川氏の解釈ってのも、ちょっとうがちすぎじゃない?と思うところもありつつ、単純に“よくそんな思いつくよなぁ~”と感服いたした。
「残酷な揺り籠」
前作で出てきた、“お金貸していた友人”というのが出てくる。
じつはこの人、前では端折っていたが、若くて不幸な男をはべらせて生活をしていた。
ところが、ある事件を介して再会してみると、年上の男と結婚していた!
と“ある事件”ってのが今回の事件なのだが。
それは、震度6の地震が襲った時に起こる。その夫婦が住む家の離れにて、男が拳銃に撃たれて死んでいたのだ!
しかもきっかいなことに、旦那宛に送られてきたワインを、昼食前に飲んだ夫婦は睡魔に襲われ、その間寝ていたというのだ。どうやらそのワインに睡眠薬が注入されていたらしい。
捜査を進めていくうちに、その怪しいワインは被害者が送ったことが判明し……
面白かったけれども、やっぱり短編だけあってトリックが甘い気がする(偉そうだけど)。
がっつりとした長編が読みたくなってしまった。今度探しに行こうっと
有栖川有栖 「妃は船を沈める」 2008年 光文社
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