旅先で持ってきた本を読み終えてしまい(ちなみに「砂の器」)、急遽買ったのが「月の裏側」。恩田陸だったら間違えはないでしょう、という信頼感から買ったが・・・
う~ん 今回は恩田陸マジックが足りなかった気がした。
一応”ホラー”ってことになってるけど、全然怖くないし、ただ得体の知れない本って感じ。
とりあえず、なんかはっきりしなくてぼんやりとした小説でした。もっとホラー色が出ていたら、もうちょっと面白かったんではないか、とも思った。
舞台は九州の水郷・箭納倉。解説によると柳川がモデルとなっているらしい。
そこへ塚崎多聞がやってきたところから話が始まる。彼はかつての恩師・三隅協一郎に招かれてやってきたのだ。
そこで聞いたのが、ここ箭納倉で3件相次いで不可解な失踪事件が起きているということだった。
なんでも老女が忽然と姿を消してしまい、それでいて何日か経つとまたひょっこり戻ってくるのだ。それでいて、その失踪期間の記憶がない。
協一郎の娘・藍子と、協一郎と前からそれについて調べている、新聞屋の高安とで、この事件について調べることとなった。
そしてどうやら、帰ってきた人たちは前の人たちと違うらしいということ、なぜなら無意識の動作がまったく同じであるから、堀近くの人たちばかりが失踪しているらしいということ、なにやら得体の知れないものが彼らを連れ去り、連れ帰っているらしいこと・・・などなどが分かってくる。
そしてクライマックスは、突然箭納倉から人が忽然といなくなるところから始まる。
どうやら夜中のうちに、4人を残して全員消えてしまったらしいのだ。
その前に裸足で寝てはいけない、という話を聞いていた4人は、長靴を履いたままの生活を始めるのだが・・・
という話の流れだが、なんだかあっさりとしすぎて味気がない気がした。端的に言えば物足りない。
話の流れとは違ったことで、恩田陸って「転校生」とか「流れ者」をよく描いている気がするが、彼女もそういう経験が豊富なのだろうか?たとえば;
言葉が違うということは、その人間が異分子であるということを如実に示してしまう。異分子であるということは、さまざまな危害を加えられる可能性が高くなる。自分の身を守り、共同体に馴染むには、その共同体の言葉を覚えるのが有効であるのは自明の理である。…(中略)…新しい共同体の言葉を覚えると、その共同体の方でも喜んでくれる。しかし、難しいのは、早すぎてもいけないということである。あまりに習熟が早すぎると、逆に共同体から警戒されてしまうのだ。
(p93)
なんて説得力がある。
でもでも、恩田陸は「郷愁」というものを書くことに関しては天才的だし、閉ざされた社会を書くのも上手い。となると・・・?
と色々考えるのも野暮ってものですかねぇ。とりあえず、恩田陸は上手いってことですかね。
今回のお話はいまいちだったけどね!
<恩田陸 「月の裏側」 平成14年 幻冬舎>
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