すっかり奥田英朗が気になった私は、まず彼の初出版物・「B型陳情団」を読んでみた。
これは前に読んだように旅行記ではなく、奥田氏が日々思うこと・感じることをつらつら綴っているものだった。
既読の「泳いで帰れ」とか「野球の国」よりは面白さがちょっと劣る気がした。当たり前かもしれないが。
というのは本書含めて3冊とも、偏屈な感じが伺えられるのだが、「泳いで帰れ」とか「野球の国」の方がそれにプラスして洒脱さが出ているのだが、本書はちょっとそれが薄い。そのためか、時々くどく感じる。
でも概ね面白かった。
話は非常にそれるが、私はどうやら“繰り返しの構造”というものが好きみたいだ。
例えばクラシック音楽だったら変奏曲とか好きだし。そうやって何度も繰り返す中で、中身がちょっと変わったり、変調していったりするのがなんか好きだ。
今回の「B型陳情団」にもそういう箇所があった。
奥田氏はスースーするものが好きらしいが、そのスースーを求めて、スースー遍歴を繰り広げていた、というくだりで
〈ホールズに出会った時〉;
「ガキはあっち行け、シッシッ」
p165
というわけである。
このシッシッの思想と潔さは実にいい。
〈ホールズ・エクストラに出会った時〉
「菓子と一緒にするなよ、ケッ」
p167
というわけである。 このケッの思想とスノビズムは実にいい。
〈スーパーレモンキャンディに出会った時〉
「ただの菓子だと思うなよ、フッ」
p168-9
というわけである。
このフッの思想とアイデアは実にいい。
〈フィッシャーマンズ・フレンドに出会った時〉;
「飴だと思ってなめるなよ、フフン」 というわけである。 このフフンの思想と伝統は実にいい。
p169170
となるのだが、それが妙にツボ。 なぜでしょうね。こういう繰り返しテクニックってそう珍しいものではないはずなのに。 私の琴線に触れるみたいです。 ポイントはくどくなく、しゃれた繰り返しと洒落た型はずし、といったところでしょうか。 次は奥田氏の小説を読んでみようと思う。
(奥田英朗 「B型陳情団」 1990年 講談社)
コメント