あんなに散々文句を言っていた「盗神伝」。でもgive another tryではないけれども、様々な書評を信じて、もしくは高評価の理由を知りたくて、“やっぱりいいや”と思ってしまう前にと「盗神伝I」を返したその足で2巻を借りた。その結果は・・・
面白かったぁぁぁぁああ!!
書評を信じてよかったと思った瞬間。
でも一応いくつか文句はあるといったらある。例えば、やっぱり翻訳。ちょっと下手なんじゃないかと思う。文章によっては2度読まないと意味が伝わりにくい部分もあるし。ま、原作を読んでいないので、翻訳が本当に下手なのか、はたまた原作自体の文が下手なのかは分からないが。
そして、挿絵。今回はオリビア・ハッセイ出演の「ロミオとジュリエット」のジュリエットのような格好をした、多分アトリアの女王が表紙を飾っている。あれ?これってギリシャがモデルになっているんじゃなかったっけ?という感じ。でも本文を読みながら、ジュリエット風の服装(つまりイタリアチックの服装)を想像していてもなんの違和感もない。そこでハタと気づいたのが、この本、あまり情景描写がないんですよね。だからギリシャ風ったって、国の名前だとか登場人物の名前だとか神話がギリシャ風なだけであって、お話自体はギリシャっぽいわけでは全然ない。それがどうしたって感じだが、なんとなく情景が浮かばないのは、ちょっと物足りない気がするのだ。
と文句はこの辺で置いておいて。物語自体は本当に面白かった。
ファンタジー本にはお馴染みの地図がないので位置関係とか国の大きさがはっきり分からないが、エディス国はソウニス国とアトリア国に挟まれているよう。エディス国は資源があまりなく、材木やらの輸出で保っているらしい。
話はエディス女王の盗人、我らがエウジェニデス(前巻ではもっぱらジェンと呼ばれていたが)がアトリア国に忍び込んだところを、アトリア女王に囚われ、エディス女王の見せしめに右腕を切り取られるところから始まる。マゾっ気があるわけではないけれども、主人公が怪我とかしてのっぴきならない状況になるとワクワクしてしまうので、最初から“こりゃきたぞ”ってな感じだった。
自分のことを“元女王の盗人”とやさぐれて、殻に閉じこもってしまったジェンをよそに、ジェンに対する仕打ちに憤ったエディス国はアトリア国に戦争を仕掛ける。一方、アトリア女王はもっと大きな国・メデア帝国と懇意になって、それを迎え撃つ形になる。
その事実を知ってようやく殻から脱したジェンは、この戦争に“盗人”らしく加わることになるのだ。というのは、ソウニスのメイガス(助言者)を盗み出し、ついでにソウニスの戦艦を破壊して、それをあたかもアトリアの仕業と見せかけるのだった。
その後はひたすら戦争記のようになっていて、国情勢、ジェンの活躍などなどがつづられ一気に話に引きずり込まれ、そのまま3巻へと続く。
ジェンのやさぐれ期間が結構長くてイライラもちょっとしたけれど、結果的に物語のスピードの緩急の差が出てよかった。
「この作戦を実行するには、あんたの命令が必要だ」
p327
そういうと、女王の足に寄りかかり、首をまして女王をみあげた。
「おれの女王様」
やさしい声でいった。…(中略)…
「ジェンったら。エディスの国民があなたにもっと期待するっていったのは、こういうことをしてほしいっていう意味じゃなかったのに」
女王は椅子にすわったまま、ふたつそろっている自分の手をじっとみつめた。
「わかったわ」
ようやくそういった。
「アトリアの女王を盗みにいきなさい」
ひゃっほぅ! 早く次を読まなくては!!
(M.W.ターナー 「盗神伝II アトリアの女王 前篇―復讐―」 2003年 あかね書房)
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