いよいよホームズのシリーズも最後になった“事件簿”の上巻。
時々非科学的なものもあったり、似たようなネタだったりすることもあるけれども、なかなか面白かった。
収録作品は(ネタバレ注意!);
「マザリンの宝石」
ホームズが推理する、というよりは悪者から一本とる、といった方が正しいようなお話。
“マゼリンの宝石”を盗んだやつは分かっているものの、その場所が分からないというホームズ。
その犯人である伯爵とその手下を呼び、5分待ってやるからどうするか決めろ、と言って隣の部屋でバイオリンを弾き始める。
その部屋にはホームズとよく似た蝋人形が置いてあったのだが、ホームズが隣の部屋にいると安心して宝石のありかをしゃべった途端、その蝋人形が動いて宝石を取ってしまう。
その人形こそがホームズで、隣の部屋から聞こえてくるのは蓄音機だった、という話。
当時は画期的だったのかもしれないけれども、現在の私からしたら意表を突く、という結果ではなかったかなと。
「ソア橋」
実は並行して読んでいる本がシャーロキアンがばかすか出てくる本なのだが、そこでこの結末を言ってしまっていたので、ちょっと残念なお話だった。
ある上議員の妻が銃殺されていた。その手には、その屋敷に家庭教師として来ていた女性からの、会う約束が書かれた手紙。そしてその家庭教師の部屋のワードローブから拳銃が出てきた。
ということで、とてつもなくその家庭教師が怪しいのだが、彼女に恋している上議員から、疑いを晴らしてくれるようにという依頼が来る。
真相はというと、夫が自分ではなく家庭教師のことを好きになってしまったことに嫉妬した妻が、他殺に見せかけて自殺した、ということだった。
「這う人」
割と突飛で非科学的なお話。
妻に早く先立たれたものの大変元気で聡明だった教授が、この頃不気味におかしいので調査して欲しい、という依頼が、この教授の助手であり、教授の娘の許嫁の男から来る。
なんでも夜中に這うように廊下を歩いていたり、3階にある娘の部屋を、窓の外から眺めていたりしていたそうだ。
こんな変になってしまったのが、ある若い女性に恋してからだという。
若返りの薬として、猿の血液を摂取していたのが原因だった、という話。
「吸血鬼」
再婚した妻が吸血鬼かもしれない、という依頼。
前の妻との間にはかわいらしい息子がいて、彼は背中の悪い少年であるものの、大変いい子である。
その息子に折檻するだけではなく、自分が産んだ赤ちゃんの首に顔をうずめて口の周りを血で赤くしているというのだ。
ホームズが調査に乗り出すと、妻は部屋に閉じこもったきり出てきていない。
息子と赤ちゃんの様子を見たホームズはたちまち謎を解明し、妻は吸血鬼でもなんでもなく、ただあることを旦那に言えなくて苦しんでいるという。
というのは、赤ちゃんに嫉妬した男の子が、部屋に飾ってあったアフリカからの装飾品の内、毒針を取って赤ちゃんに刺していた。それを妻は慌てて毒を吸い取っていたのだが、その男の子を大変可愛がっている夫に言うこともできず、吸血鬼呼ばわりされて寝込んでしまったというわけだった。
「三人のガリデブ」
ホームズのシリーズで何度か出てきたパターン。つまりおいしい話を持ちかけて家を空にさせ、その間にその家にある何かを取ろうとしていた…という類いのもの。
ある金持ちが、ガリデブという名前の男3人に、自分の遺産を与えようと遺言を残して死んでしまう。
それを聞いたアメリカ人のガリデブが、イギリスに渡って来てなんとか二人目のガリデブを見つける。
その二人目のガリデブに事情を説明すると、イギリス人のガリデブはホームズに3人目を探してくれるように依頼するのだが、その時、バーミンガムに店を構えるガリデブを見つけた!とアメリカ人ガリデブが現れる。
手にはガリデブ氏が出している広告が載っている新聞。
それで、イギリス人ガリデブにバーミンガムに行くようにお願いするのだが…
今回胡散臭い、と発覚するのが、この広告の文言がアメリカ英語で書かれていた、ということからだった。スペルが違ったり単語が違ったり。こういうのは面白かった。
「高名の依頼人」
高名な依頼人がどのように事件と結びついているのかがいまいち分からなかった。
高名すぎて名前を明かせないような人から依頼が来るのだが、その依頼というのが、ある将軍の娘・バイオレットが悪名高い男爵と結婚しようとしているのを止めてくれ、というものだった。
確かにこの男爵は本当に悪くて、人殺しまでしようとしているのだが、なんで高名な人が依頼人になる必要があったのかがよく分からない…
なにはともあれ、このずる賢い男爵の化けの皮を剥がすために、彼が女性をコレクションのように扱っている、という証拠となる日記を盗む必要がある。
そこでワトスンはおとりとして送り出される。
最終的に、ホームズも不法侵入者として法に触れることになるのだが、この高名な依頼人のおかげでおとがめなし。
まさかこれだけの為に依頼人が高名である必要はないと思うのだが…
コナン=ドイル 「シャーロック=ホームズの事件簿(上)」 福島正実/加藤喬/常盤新平/内田庶・訳 1993年 偕成社
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