あまりの翻訳のひどさに、いつもの子供用に戻ったシャーロック・ホームズ。
なんだかほっとする。ホームズの口調が元に戻った感じ。
「シャーロック=ホームズの帰還」で再開されたホームズの話だが、最後の「第二のしみ」にまたもや“ホームズの手柄話を発表するのも最後”といった言葉が出てくる。
コナン・ドイルはこれで止めるつもりだったのだろうか…?
あと、昔、高田崇史の「QED ベイカー街の問題」を読んだことがあって、そのせいで帰還したシャーロック・ホームズと違うような気がしないでもなかったが、それは気のせいなのか…?
確かに以前のホームズは拳銃を持たず(それはワトスンの役割だった)、しかも法を無視することもなかった。なのにこのホームズは、普通に人の家に押し入るし、法なんて糞食らえ!という姿勢がどことなくある。
でも、まだ学生である犯人に対して
「それかれ、きみ、ローデシアでは、かがやかしい未来がきみを待っているにちがいない。きみは、いったんはひくいところへ落ちた。そのきみが将来、どんなに高いところまでのぼれるか、楽しみにしていよう。」(p105)
というホームズは、以前の優しさがあるホームズのままである気もしないでもない。
それはさておき、本書に収録されている作品は以下の通り(ネタバレあり);
「六つのナポレオン像」
ナポレオンの石膏像が盗まれて割られる、という奇妙な出来事が起きる。ただのいたずらのようだったのが、ホームズが手掛けるようになったのは殺人が起きたからだった。
同じ型の石膏像は六つあるのだが…という話。
なんとなく「青いガーネット」と似たような展開だな、と思ったら、果たして同じような結末だった。
盗んだ真珠を持っている時に警察に捕まりそうになる。なので職場にあった、まだ乾いていない石膏の中に真珠を埋め込み、娑婆に出てきた今、石膏を壊しながら探しまわっている、といわけだ。
そして殺された死体は、例によって仲間割れした仲間だったというわけ。
「三人の学生」
部屋に鍵をかけて出掛けたはずなのに、戻ってみると鍵が開いており、しかも部屋の中にあった、奨学金をかけた試験問題が散乱。明かに誰かがカンニングしている。
その建物には三人の学生が住んでおり、いずれも次の日はその試験を受けることになっていた。
その部屋の主である教授がホームズに助けを求めてきた。
ホームズは学生の身長から犯人を割り出すのだが、犯人はホームズが指摘する前には学業を諦め、就職することに決めていた。
「金縁の鼻めがね」
寝たきりの教授が執筆するのを助ける為に雇われた青年。物静かで敵がいなさそうなのに殺された。手には金縁の鼻めがね。最後に言った言葉は「先生、あの女です」。なんでも、その前に女に道を聞かれたらしい。
ちょっと調査するだけで女性の姿形をぴたりと当ててしまう。
真相は、その女はロシア人で、この教授もしかり。夫婦だったのだ。二人は革命家だったが、教授は仲間を裏切ってしまう。妻と他の同志は捕まり、絞首刑に処せられたり、シベリヤにやられたりした。
その同志の中には暴力に反対しており、刑がまったく不当である者があり、それを証明できる日記や手紙を教授が持っているという。刑期を終えた女性はそれを取り返しに来たのだった。
日記と手紙をロシア大使館に渡してくれ、と頼みつつ毒を飲んで死んでしまう。
「スリー-クォーター失踪実験」
奇妙な電報を受け取る。その後依頼主が来るのだが、ケンブリッジ大学のラグピー部の選手だった。
なんでも、有望なるスリー-クォーターが試合間際だというのに失踪してしまったというのだ。
ホームズはもちろん探しだすのだが、真相はというと、彼には密かに結婚した妻がいて、病死しそうだというニュースを聞いて飛び出したというのだ。
「アベ荘園」
アベ荘園に指名手配されている強盗が入り、ブラックンストール卿を殺し、夫人も椅子に縛り付けられる。
夫人はオーストラリアから女中を一人連れてお嫁入りしてきた人で、卿とはうまくいっていなかったようだった。
ホームズが3つあるワイングラスと、呼び鈴の紐で夫人が縛られた、という事実より、強盗劇は芝居だったのではないか、と突き止める。
夫人がイギリスへ来る船の中である航海士と出会い、その青年は夫人に恋に落ちる。
だが、嫁いだ相手というのが大酒飲みで彼女に暴力をふるう。それに耐えられなくなった青年は夫を殺してしまい、夫人は彼をかばったというのが真相であった。
ホームズは警察に引き渡すことをせず、ワトスンと裁判の真似ごとをして無罪にしてしまう、というのが今までにない感じであった。
「第二のしみ」
この話で、ワトスンが語っているのは事件より大分経ってからで、ホームズは既に探偵業を営んでおらず、田舎で蜂の飼育をしている。ちょっとがっかり。
それはともかく、この事件の依頼人は首相とヨーロッパ省大臣。
大事な手紙が盗まれてしまい、これが公開されたら戦争が起きるかもしれないというのだ。
その後スパイ容疑のある怪しい三人のうち一人が殺されていることが分かる。
しかも、続いてホームズの前には、大臣の夫人が姿を現す。
真相は、夫人は昔書いた手紙をネタに殺された男に、大臣の手紙を盗み出せと言われる。
盗み出した夫人は男に渡すのだが、その時に恐ろしい形相をした女が現れ、男と争いになったので慌てて逃げる。この女は、彼と恋人関係であったが捨てられ、夫人を浮気相手だと思って逆上して殺してしまったのだ。
夫人は、自分が盗んだ手紙で、夫が窮地に立たされているのを知るや否や、取り返しに行ったのだった。
それを知ったホームズは、この事件をなかったことにしてあげる。
コナン=ドイル 「シャーロック=ホームズの帰還(下)」 内田庶/中上守/沢田洋太郎・訳 1984年 偕成社
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