各章のタイトルもよかった:西澤保彦 「七回死んだ男」


本交換会で「むかし・あけぼの」と交換してもらった「七回死んだ男」。
平安朝の本とミステリと、すごいギャップの交換だったが、説明を聞いて是非とも読んでみたくて、交換タイムの時にはすぐさま変えてもらった。

その甲斐あってか、非常に面白かった。
説明が割と詳細だったので、それを忘れた頃に読みたかったところ待ち切れず読んでしまったのだが、あまり支障がないくらい、面白かった。

ざっとしたあらすじは、主人公の久太郎は特異な体質を持っている。それは、突然同じ日を9回反復してしまうということだった。
一種の先天性病のようなもので、小さい頃から突然その状態になる。制御不可能で不規則で、ただ9回反復する、というのだけが決まっている。
そしてその反復の第一回目はオリジナルの周となり、主人公が手を加えない限り、それと同じことが残りの8回で起こる。そして9回目は決定版となり、例えば9回目で主人公がテスト100点取れば、それが事実となる。

話の発端は祖父の家へ新年の挨拶に行ったところから始まる。
この母方の祖父と母親とは確執があり、祖父は料理人にしてギャンブラーであった。母親は、祖父のギャンブル好きがために貧乏生活を強いられ、挙句の果てには祖母(母親にしては母)が死んでしまう。長女だった母親は面倒はごめんとばかりに、エリートと結婚し家を出ていって、関係を絶つ。
それに遅れてはいけないとばかりに三女である母親に妹も男を見つけて家を出る。
祖父のもとに残された二女は精神病にかかりかけ、途方に暮れた祖父は自殺を考え、その前に有り金を賭けてギャンブルしたら大当たり。株にも手を出しても大当たり。
かくして、それを期に更生した祖父は一大グループのオーナーとなったのだった。
それにしまったと思ったのが、長女である久太郎の母親と、その末の妹。
幸いなことに二女は結婚しておらず後継者がいない。自分の子供を後継者に、と祖父にすがりつくというのが正月のあいさつとなるのだった。
今年の正月早々、祖父は遺言に後継者をしたため、それが正式な後継者となると発表する。
次の日、昼近くに起きた主人公は、祖父に捕まってべろんべろんに酔わされ、大変な目にあいながら実家に戻るのだが…

目を覚ましたらもとの祖父の家。
ははぁ 反復が始まったのだな、と思って、またべろんべろんになるのを8回繰り返すのはごめん、とばかりに祖父を避ける。

すると…なんと!祖父は何者かに殺されてしまったのだ!
オリジナル周にはなかったことが、こんな明確になって現れることは珍しい。
ということで、久太郎はなんとか祖父を死なせないように、各周で試みるのだが、犯人を隔離させても違う人が犯人になってしまったりと、まったく埒が明かない。
挙句の果てには全員を一間に集めておいたら、祖父は階段で足を滑らせて死んでしまう…
とここからはネタばれ含むのでご注意を



言うなれば、本書のポイントは“誰が犯人か?”ではなく、“なぜオリジナル周で起きなかったことが、それ以降の周で起きてしまうのか?”ということにある。
まったく新しい観点のミステリーで、どうしても殺人に目がいってしまうと、最後のからくり明かしで“やられたー!”となってしまう。
すなわち、オリジナル周だと思っていたのが、実はオリジナル周ではなかったのだが、あちこちにあまりに明確な布石が敷いてあるので、分かっても当然なところを、“ミステリー=殺人”というのに目がくらんで、“どうやったら殺人を止められるのか?”という方にばかり頭がいってしまった。
本当は“なぜオリジナル周で起きなかったことが、それ以降の周で起きるのか?”というのが争点だったのに。

少なくとも私はそんな感じだったので、最後の種明かしでは、見るべきところはそこだったのか!と裏をかかれた(いい意味でね)感一杯であった。
初めての作家さんだったので、他も読んでみたいと思った。


西澤保彦 「七回死んだ男」 1998年 講談社

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