『オーデュポン~』の登場人物が出てきた?:伊坂幸太郎 「重力ピエロ」


久しぶりの伊坂幸太郎作品の「重力ピエロ」。
“久しぶり”なんて書いたけど、実はそんなに読んでいない伊坂作品。なんでだろうなー面白いとは思うんだけど、本を選ぶ時にはぱっと思いつかないのだよ……。
それはさておき、「重力ピエロ」はまたまた読書会にて、“家族”がテーマになった時に主催者さんがオススメしていた作品だ。
割とすぐ図書館で借りていたし、読み始めたのだが半分きた時点で、随分時間があいてまた半分を読んだ。
なんでかなー。面白いんだが。
面白いんだが、どうも今回の場合は、主人公の弟とか魅力的っちゃ魅力的なキャラなのだが、彼が発する過激的なセリフが“狙ってる”雰囲気を感じてしまい、後ずさってしまった。
とは言いつつも、最後のほうはちゃんと(?)涙したし、十分面白い本だったと思う。

さて物語はというと、舞台は例によって仙台。
主人公は遺伝子を扱う会社に勤める泉水。彼にはとてもかっこいい弟の春がいる。この二人の兄弟は非常に仲が良くて、特に小さい時には春がなんでも泉水のやるこを真似るエピソードは微笑ましい。
もう亡くなってしまった美人だった母親、寛大で素敵な父親。
それだけだと完璧な家族だが、この家族には哀しい過去があった。
それは、母親は強姦魔にあったことがあり、その結果産まれたのが春だったのだ。
春を産もう、と言ったのは父親で、本当にこの父親はかっこいいと思うのが、このシーン;

「父さんは春のことをどう思っているわけ?」私はその時、予想もしなかった家族の秘密に混乱しながらも、訊ねた。…(中略)…
 父は即答した。
「春は俺の子だ。俺の次男で、おまえの弟だ。俺たちは最強の家族だ」
 穏やかな言い方だった。そこには、我こそが悲劇の主人公である、と自らを哀れむ様子もなければ、自分自身を鼓舞するような響きもなかった。自分の台詞にうっとりするナルシストの顔にも見えなければ、子供の前だからと取ってつけた返事にも聞こえなかった。

(p68)

実際、この父親の一貫した姿勢がこの兄弟を救うこととなる。
さてお話の発端は、仙台で起きた連続放火事件に始まる。
この頃には、父親は癌に侵され入院していた。
春はというと、街のあちこちで描かれるグラフィティを消すのを生業としていた。
そんな春から放火事件に関する謎を提示される。
曰く、変なグラフィティが描かれるとその近辺で放火が起こるというのだ。
入院生活に飽き飽きしていた父親と、そういうのが気になってしまう泉水とで、“一丁、謎ときでもするか”という雰囲気になり、泉水は現場をまわって捜査をしてみることにする。
話のオチを端的に言ってしまうと、春が自分の生の源となった強姦魔と決着をつける、というお話だった。

話の内容としては、『ラッシュライフ』とか『陽気なギャング~』ほど衝撃的な面白さがあったわけじゃなかったけれども、父親がすごくよかったので良しとするか(上から目線じゃ!)。


伊坂幸太郎 「重力ピエロ」 2003年 新潮社

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