藩医を匙と呼ぶのがかっこいい・・・:宮部みゆき 「孤宿の人(上)」

久しぶりの宮部みゆき作品で「孤宿の人」の上巻をやっと読了。

やっとというのは、なんだか興が乗らなくて、なかなかページが進まず、図書館から延滞に延滞を重ねて、その上借り直して“やっと”読み終わったのだ。何故ページが進まなかったかというと、なんとなく出だしがのんびりしていて、ぼんやりした、うやむやな雰囲気で話が進むのだ。「あれ、宮部みゆきってこんな歯切れ悪かったっけ?」と思うくらいに。

舞台は江戸時代は讃岐・丸海藩。

訳あって、たった9歳でほうは江戸から金比羅参りにやられる。しかも途中で病気になって、その間に置き去りにされてしまう! ただ幸いなことに藩医「匙」である井上家に引き取られ、平穏な日々を手に入れるのだった。ところがそんな平和な日々が長く続かないのだ、もちろん。

その井上家の息女琴江が毒殺されことから事件が始まる。
でも犯人の検討は既についていて、それは梶原家息女美祢であった。何しろほうや下男が見ていたのだ。それなのに、琴江の死因は「病死」とされるのだった。

その背景には藩の情勢というものがあった。
というのは、同じ時期にして丸海藩は幕府の命で罪人を預かることになっていた。
何しろ、幕府からお預かりの“罪人”だ。その上罪人は元勘定奉行の高官で、彼を扱うのは非常にデリケートな問題だったのだ。

で、美祢の父親の役職、物頭というのが、その罪人・加賀様を扱うお役目。だもんだから、一家から殺人者が出るなんて、最終的には藩命にかかる。だからなかったことにしなくてはいけない、というわけだ。

本書で主要人物を勤めるのはほうの他にあと二人いる。
一人は女だてらに引手(江戸でいう岡っ引き)の見習いをやってる宇佐。縁あってほうを引き取ることになり、琴江の死の真相に迫ろうとするが、その途中で事の深刻さを知る。

もう一人は町役所の同心渡部一馬。井上家長男啓一郎の道場仲間で琴江に惚れていた。最初の方こそ真相を掴もうとするが、こちらは事情をすぐ察しすぐ手を引く。
上巻の最後の方ではほうが加賀様が幽閉されている涸滝の屋敷の下働きとして住み込むことになる。
前述しなかったが、この“罪人”加賀様が為した罪状というのが、妻子供・部下を殺すという残虐なことで、江戸の者から丸海藩の者にまで「鬼」として恐れらている。

その上、涸滝の屋敷自体にも曰くがあって、ある意味、毒をもって毒を制すというわけだ。
そんな所にたった9つのほうがやられる。
それに憤りを感じて抗議しようとした宇佐にも災いがふりかかる。
宇佐の親分の子供が肝だめしだといって涸滝の屋敷に忍びこんで、斬り捨てられてしまったのだ。それを宇佐が知ったシーンはさすが宮部みゆき!という感じだった;

 水に入ったわけでもないのに―よく知っている、いつも散らかってるが居心地のいい嘉介親分の家のなかで、いつも太郎と次郎の明るい声がいっぱいに弾けていたこの家のなかで―宇佐は溺れてゆくのを感じた。どんどん深みに吸い込まれてゆくのを感じた。

p391

この後、嘉介親分の代わりにやってきた親分によって、宇佐は職をも失ってしまう。
ほうが涸滝の屋敷に入る頃からは面白くなったが、それまではどうも調子が出ない。

宮部みゆきがお得意とする江戸が舞台じゃないからなのか、テンポのいい江戸と地方の讃岐と差をつけようとしたのか、とにかく歯切れの悪い感じで話が進む。

何しろ犯人は分かってるのに、「何もなかったこと」になってるのだ!登場人物としては手も足も出ず、読者としてはモヤモヤするばかり。

とりあえず、上巻が終わりそうな時に面白くなって良かった。

(宮部みゆき 「孤宿の人(上)」 2005年 新人物往来社)

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