作者は「いい男で、でも一途で女達にモーションをかけられようがなびかない」というシチュがお好きなようだ:畠中恵「つくもがみ貸します」

なんでこの本が「読む本リスト」に入っていたのか記憶にないが、「しゃばけ」関係で気になって入れておいたのか、どこかに紹介文が載っていたのか、ま、二つに一つでしょう。
そんなわけで読み終わった「つくもがみ貸します」。

「しゃばけ」とは主人公が違えども、舞台は江戸、不思議な事が起こるというのも変わらない。ただ今回の妖は“付喪神”。そしてそれらが活躍するのは損料屋といって、物を貸すということを生業にしているお店。どうやらこの損料屋というのは、火事の多い江戸では、余計な物はできるだけ持たないという考えより大層繁盛したそうな。その損料屋である出雲屋を営む清次とお紅姉弟がこの話の主人公である。

とはいうものも、一番よくしゃべりよく出てくるのは、そこの商品である付喪神かもしれない。損料屋の清次・お紅姉弟はこの存在を黙認しており、付喪神達もその二人とは会話してはいけないという掟を作っておきながらも、一方的に聞かれることは問題にしていない。

かくして、時にはわざと付喪神をその場所に貸し出して、情報収集しながら問題解決をしていく、という形を取る。

収録作品は以下の通り;

「利休鼠」…武家の次男坊の婿入りとなる家からもらった利休鼠の根付け。それが賊に盗まれ、しかし婿入り先には知られてはならないので、内密に探してくれるよう頼まれる。

「裏葉柳」…鶴屋は新しく開く料理屋。どうやらそこの主人幽霊が出る物件なのに、それを知らされず破格の値段で買い取ったらしい。そこへ道具を貸し出した出雲屋清次はなんとか知らせようとする。

「秘色」…1話目からちらっちらっと出てくるが、お紅は“蘇芳”という香炉を探している。香炉というよりそれを巡ってある人物を探している。この話はその“蘇芳”にまつわる話。でもその人物はまだ見つからず。

「似せ紫」…過去に戻り、お紅はまだ出雲屋に引き取られておらず(実はお紅は出雲屋の姪っ子で、清次は出雲屋の養子。その出雲屋夫婦は他界)、父親の骨董品店にいる。そこへお紅をくどきにやてくる佐太郎。そしてお紅を取られまいと邪魔する清次。そして佐太郎の“蘇芳”にまつわる事件と出奔。江戸の火事とお紅が出雲屋に引き取られる成り行き。

「蘇芳」…佐太郎が江戸に戻ってきた! それなのにお紅の前に姿を現さない。はてさてお紅はどっちになびくのか。

一話目の「利休鼠」以外、最初に付喪神の自己紹介から始まる。一話目にもそれに匹敵させるように「序」が付いているので、ま、途中からこの形式で行こうと思ったんでしょうね。

ちなみに「裏葉柳」が一番好きな話だった。最後はなんとなく後味の悪い終わり方をするが、こういうもどかしい歯がゆい思いとやりきれない思いというのは、こういうミステリー調の話(つまり死が関わっている話)ではよく取り上げられるように思うが、各々の作家の書き方の違いというのはなかなか面白い;

「やっと一矢報いたと思うけど……こんなことしか出来ないのかとも思いますよ」
…(中略)…
 法からすり抜け、この世で罪には問われないこともあるのだ。分かっている、分かっている。
 だがそれを知って開き直っている者がいる故に、分かってはいても納得できず、総身は幽霊と化すのだ。復讐を思い立つのだ。馬鹿だと思っても、どうしても、いつまでも納得出来ないまま……。
 鶴屋の手が、ゆっくりと己が顔を覆った。指に力が入り、微かに震えている。
「どうしようもないことだt、分かってはいたんです」
 その時鶴屋が再び、小さな声で笑い出した。だが涙も流れている。
「この度は馬鹿なことをしました。でも……他に、どんなやりようがあったでしょう」
 泣いて笑って泣いて泣いて泣いて……。

p100-101

鶴屋の憎む相手というのは、このままのうのうと自己肯定しながら生きていくのだろう、という締めはそんな後味がいいものではないかもしれない。でも、その仇を付喪神たちがとったというのが、妙にしっくりきて鶴屋の心の慰めにちょっとなったんじゃないかと思う。

(畠中恵 「つくもがみ貸します」 平成19年 角川書店)

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