「精霊の守り人」シリーズを借りようと児童書コーナーに行ったのに、続きの巻がなくてちょっとがっかりして目線をあげたところに、ミステリーランドシリーズがずらっと。
何人か自分の好きな作家の作品を読んだことがあったので、目を通していると綾辻行人の文字が!ということで、いそいそと借りる。奥様の小野不由美の「くらのかみ」が今のところこのシリーズ内でダントツに面白かったので、ちょっと期待しつつ
タイトルの「びっくり館の殺人」から察するに、綾辻行人のデビュー作で代表作(と勝手に私が思っているが概ねあってると思う)の館シリーズなんだろうなぁ、とふんでいたが果たして。主人公の永沢三知也が古本屋で鹿谷門美の「迷路館の殺人」を手に取るところから始まる!
この鹿谷門美は言わずもがな、館シリーズに出てくる島田潔氏で、確か「迷路館の殺人」は氏のデビュー作となっている(もちろん現実の世界にもあるし、蛇足ながら館シリーズの中でこれが一番好き)。
そしてそして!この「びっくり館」も中村青司によって建てられたということを、しょっぱなから主人公が思い出すことから読者も知ることとなる。ある意味、「中村青司が建てた」という記述で、この作品がまぎれもなく「館シリーズ」なんだ、と証明されたようなものかもしれない。
そんなわけで、最初のシーンでアドレナリンがどばぁぁぁぁっと出て、ふんふん鼻息荒くページをめくっていくことにあんった。
永沢三知也が「迷路館の殺人」を手にとったところで記憶が蘇り、回想していく形で話が始まる。
話の流れとしては、大学生の三知也が「迷路館の殺人」を手に取り、自分が小学6年生の時に遭遇した「びっくり館」でおきた、その館の主、つまり友達の俊夫の祖父が殺害された事件を思い出す。
そしてそこから、兵庫県A**市(たぶん芦屋市)に引っ越してきたばかりで、「びっくり館」の噂を聞いた頃から事件までの回想が始まる。
三知也が「びっくり館」に忍びこんだことから、そこに住む同い年の俊也と友達になるのだが、こういう話でよくあるように、俊也は病弱で美少年。「びっくり館」には祖父と二人きりで住んでいる。
母親も姉もいたようだが、姉の梨里香はおととし死んでしまい(後で母親に殺されたということが判明する)、嘆き悲しんだ祖父は腹話術用の人形にリリカと名づけて、その人形を梨里香として扱っている。
謎に包まれた屋敷に祖父と病弱な美少年、不吉な過去、気味の悪い人形、仕掛けのある屋敷、奇行に走る祖父。
とまあ、横溝正史的なというか、江戸川乱歩的なというか、怪奇な雰囲気と、主人公の三知也の悲しい過去も絡んできて話は進み、殺人事件へとつながる。
祖父は「リリカの部屋」と呼ばれていた部屋で、ナイフを刺されて死んでいたのだが、当然のことながら密室状態だった。
その間寝続けていた俊夫は、放心状態になっていて誰が話しかけても反応がなく。三知也は、前々から決まっていたとおり、父親に連れられてアメリカへと旅立つのだった。
そうして日本の大学で勉強するために、三知也はアメリカから日本に戻ってくるのだが、「迷路館の殺人」を手に取るまでその記憶を封じ込めていた。
誰が殺したのか、どうして密室だったのか。
それがここから推理されていくのかと思いきや……
三知也たち(発見者は三知也だけではなかった)が知っていて、世間を含め読者も知らなかった事実が明かされていくのだった……
最後はなんとも後味の悪いものだった。
ん~ 初期のいわゆる「本格派」のような感じが好きなのだが、どうも「暗黒館の殺人」といい、この「びっくり館の殺人」といい、おどろおどろしさを出すのはいいけど、ちょっとファンタジー入っていて、それが私には合わない気がする……
なにはともあれ、”かつて子どもだったあなたと少年少女のための”とうたわれているけれども、文体もそんなにいつもと変わっていなくて、どちらかというと「かつて子どもだったあなた」に重点がいっている気がした。
最後に蛇足ながら、すごく話の本筋とは関係ないながら、結構好きな表現があったので;
根拠といえるほどの根拠もない、およそ非現実的な考えかもしれない。何そんな、オカルト映画じみた妄想にとりつかれて……と、百人の他人に話せば百人みんなに笑いとばされてしまうかもしれない。けれど―。
p344-355
思えば、推理小説系って主人公がこういう風に逡巡することが多いのだから、推理作家はこういう表現方法を色色考えなくてはいけないのかな、とふと思った。
(綾辻行人 「びっくり館の殺人」 2006年 講談社)
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